洋館の人達

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霊峰富士

こうへき、です。

 

 仕事が立て込んでいました。久しぶりに投稿します。今回は、竹西寛子さんの「洋館の人達」が出題されたK中学の入試問題を見てみたいと思います。この作品を選んだ理由ですが、竹西文学について改めて考えてみたくなったからです。彼女の作品には、いつもですが考えさせられる内容が多いです。

 この作品も考えさせられます。彼女の作品には、戦争の悲哀さに直面しながらも人としての実直な生き方が感じられます。重苦しい世界において、透明感がある生きざまを描いている作品が少なくないとでもいうのでしょうか。ぼくの心に作品の世界観がねじこまれる感じがします。

 

【あらすじ】

 小学校に通う三人の男の子たちが電車に乗っています。一人のてるよしという男の子が急に万葉集長歌を次のようにそらんじます。

 

 あめつちの わかれしときゆ かむさびて たかくたふとき するがなる ふじのたかねを あまのはら ふりさげみれば わたるひの かげもかくらひ てるつきの ひかりもみえず しらくもも いゆきはばかり ときじくぞ ゆきはふりける かたりつぎ いひつぎゆかむふじのたかねは

 

 そして、その後、百人一首の「たごのうらゆ」を歌います。てるよしは言います。これは、中学に入ったら誰でも習う「万葉集」の長歌だ。なぜこの歌を覚えたかというと、父が戦地に発つ前に、この長歌を筆で書き置いて、毎朝父親に挨拶するつもりでこれを読み習うように。意味は分からなくてもいい。ただ毎日読むことだと言い残した。その通り繰り返し読んでいるうちに覚えてしまったという。

 主人公のひさしは、てるよしがこのように父親とつながっていることに驚きます。もう一人の男の子のじゅんすけは、いくらおやじさんの言いつけだからといっても、意味の分からないことを覚えるのはごめんだとてるよしを見下します。

 ひさしの家によく二人は遊びに来ます。ある日、ひさしの母親が部屋で三人が模型を組み立てているところにミカンを持っていきます。母親に向かっててるよしは言います。ひさしくんはかわいそうだ。学校でいい成績ばかりとっていたら、下から上がってゆく楽しみがないでしょ。ぼくなんか、全部の学科に夢があるもの、と。母親は、いつでも人の下に自分を置いて、それでいいとしているてるよしの態度に好感を持っていました。てるよしは、嬉しいことも腹立たしいことも同じ調子で言うので人に伝わりにくいところがあるとひさしは同情します。

 でも、それにしても長歌を暗唱していることはすごいと思います。ひさしも長歌の意味は分からないが、規則正しい言葉の快い調子をからだ全体で感じることは出来ました。ひさしは、一度聞いて覚えられたところだけを心に繰り返しながら、そうか、中学とはこういう歌を教わるところなのかと万葉集」の彼方の闇に向かって奮い立つ自分を制しかねます。中学の受験が急に近づいてきたような気がしました。

 

【問題】

「『万葉集』の彼方の闇に向かって奮い立つ自分を制しかねた」とは、どのような意味か具体的に説明しなさい。

 

【解説】

 上記に挙げた問題はK中学にはなくて、ぼくが勝手に作問しました。さて、てるよし君が詠んだ万葉集についてです。ぼくには万葉集なんてよく分かりませんので、まず、ネットで調べてみました。「万葉集」の解説サイトには、この歌は山部赤人(やまのべのあかひと)が富士山を眺めて詠んだ長歌で神の山、富士山を讃えることでその大きなご加護にあずかろうとした旅の無事を祈る呪術的な歌だということです。戦争に出征した父親が子どもに託した歌としては、うなずけるものがあります。霊峰富士の霊力を借りて戦争を無事に乗り切りたいという思いが父親にあったのと、男の子に家を守ってほしいのと、上の学校に入学して勉強をしてほしいという思いがあったのだろうと思います。昔も、今も、親の考えがそう変わるものではないと思います。万葉集には、昔の人々の思いが満載されているのでしょう。お経ではありませんが、昔の人々の思いを詠むことでそのご加護を賜ろうということでしょうか。

 さて、ひさしの考えを改めて考えてみましょう。言葉の意味は分かりませんが、万葉集長歌を初めて耳にすることで、そこに何らかの深い意味があることを身体で感じます。それが、「万葉集」の彼方の闇に向かってという表現になるのだろうと思います。中学に入ってその「万葉集」を深く勉強することが出来るのは、知識欲が旺盛なひさしには奮い立つほど気が高ぶったことでしょう。

 

【解答例】

万葉集」に関して今は全く分からないが、中学に入って本格的にいろいろと勉強出来ることは極めて魅力的なことであり、そのことを想像すると抑えきれないほど気持ちが高ぶったという意味。

 

竹西寛子  #万葉集  #山部赤人  #霊峰富士